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「研究成果」一覧   ~2023年度~

2023度助成金交付対象の「研究成果」概要   戻る

01 京都大学 大学院エネルギー科学研究科 エネルギー基礎科学専攻
   助教 Hwang Jinkwang(ファン ジンクァン) 様

テーマ:「高エネルギー密度を有するアノードフリー金属ナトリウム電池の開発」

 金属ナトリウム負極は、デンドライトと呼ばれる樹枝状の析出物が発生しやすく、デンドライト生成及びデッドリチウムの生成により短絡による火災などの危険と充放電効率が低下する問題がある。
 本研究では、様々な電解質を評価した結果、Na[FSA]-[C
2C1im] [FSA]イオン液体を使用するごとで、ナトリウムの析出・溶解効率が向上することがわかった。 しかし、アルミニウム集電体とナトリウム金属の親和性が悪いため、アノードフリー金属ナトリウム電池の作製には集電体の表面処理が必要であった。焼鈍とフッ素化処理 (F-A-Al) により、フッ素化されたAl 基板が作製し、優れたナトリウム親和性と初期のナトリウムの核形成の改善が実現された。末処理のAl/Na セルに比べて、F-A-Al 電流集電体/Na セルは、300 サイクル以上持続する高いサイクル特性を示した。イオン液体とF-A-Al が電流集電体の表面で均ーなナトリウムの析出を促進し、安定かつ長時間のサイクリング動作をもたらすことから、高エネルギー密度を有するアノードフリー金属ナトリウム電池の開発に成功した。


02 京都大学 人間・環境学研究科 相関環境学専攻 物質相関論講座
   特定准教授 高見 剛 様

テーマ:「次世代型全固体フッ化物イオン電池における高容量機構の解明」

 フッ化物イオン電池(FIB)は、現在主流であるリチウムイオン電池よりも高い蓄電容量と体積工ネルギー密度を持つため、基礎研究や開発が進められている。 しかし、FIB におけるレドックス反応に寄与する電子軌道やレドックス反応におけるスピン状態について調べる手法が限られているため、FIB の高い蓄電容量の起源は十分明らかにされていない。本研究では、FIB 正極材料の中で、現在最も高い容量(500 mAh/g)を持った正極活物質Ca
0.8Sr0.2FeO2について着目した。 このFIB 正極材料を対象として、コンプトン散乱測定と磁化測定により、電子状態を解析した結果、フッ素量x の変化に伴い、 レドックス誘起によるスピン転移と酸素の電子状態の変化が確認できた。 これは第一原理計算で得た知見と合致する。特に酸素レドックスがフッ化物イオン電池の高い蓄電容量の起源である可能性を見出した。


03 京都大学 大学院工学研究科 高分子化学専攻 教授 杉安 和憲 様

テーマ:「易分解性超分子プラスチックの開発」

 低分子化合物が水素結合などの弱い分子間相互作用で連結された分子集合体は、『超分子ポリマー』 と呼ばれ、容易にリサイクルできる新材料として大きな期待が寄せられている。
 本研究では、超分子ポリマー間の相互作用を制御するための分子設計指針の確立を目指した。超分子ポリマーの濃厚溶液を調整し、そのレオロジ一測定等の物性研究を通じて、最終的には超分子ポリマーのプロセスと材料化を目標とした。
 超分子ポリマーの界面に着眼し、側鎖構造を分子設計することによって、超分子ポリマー間の相互作用を制御できることを示した。 これによって、超分子ポリマーの溶液やゲルを得た。 レオロジー測定の結果、側鎖の置換位置が、超分子ポリマーの溶液粘弾性に影需を及ぼすことを見出した。今後、このようにして得られた超分子ポリマーから薄膜作製や紡糸を行い、材料化へと繋げる予定である。


04 奈良先端科学技術大学院大学 ナノ高分子材料研究室
   助教 Nalinthip Chanthaset(ナリンティップ チャタセ)様

テーマ:「ポリブチレンサクシネート誘導体による生分解性ハイドロゲルの創製」

 本研究では、新しく分解性ポリエステルを主鎖とするハイドロゲルを分子設計しその作製を行いました。まずポリエステルの一種であるポリブチレンサクシネート誘導体を選択し、高分子主鎖へ不飽和二重結合を導入しました。そして、この二重結合と親水性のチオール化合物とを、チオールエン反応によって結合させ親水基を導入することで、ハイドロゲル化を可能としました。また、導入する二重結合の割合を様々に変化させることで、最終的な高分子化合物の特性を比較しました。例えば、主鎖へカルボキシル基を約20~80%の導入することができました。得られたハイドロゲルのうち、ジオール基を導入したものと比べてカルボキシル基を導入したものは約16倍多く水を吸水することが分かりました。これは導入されたカルボキシルの静電反発による結果と考えられます。以上のように、本研究では新しい分解性ハイドロゲルを調製することに成功しました。


05 京都大学 大学院理学研究科化学専攻 無機物質化学講座 助教 門田 健太郎 様

テーマ:「常温・常圧において水を溶媒とするCO
2の高プロトン伝導体への変換技術の創出」

 本研究では、CO
2を原料に常温·常圧でプロトン伝導性錯体の合成を目的とした。錯体を構成する架橋性配位子としてCO2由来の炭酸イオンに注目した。金属イオンと有機カチオンの組み合わせを検討することで、CO2から常温•常圧で錯体を合成した。得られた錯体の25 wt%はCO2から構成されており、交流インピーダンス測定から 10-4 Scm-1以上の高いプロトン伝導度を示すことを明らかにした。本研究成果は、温和な条期件でCO2を錯体へと変換するための設計指針を与えるものであり、カーボンニュートラルな物質合成への貢献が期待される。


06 京都工芸繊維大学 分子化学系 有機分子材料化学研究室 教授 清水 正毅 様

テーマ:「発光型太陽光集光器に革新をもたらす有機蛍光体の開発」

 発光型太陽光集光器に用いられる高分子マトリックスは高屈折率の透明材料であり、ポリ (メチルメタクリレート) (PMMA) が汎用されている。そこで、PMMA に対して高い混和性を示し、大きなストークスシフトを示し (換言すると放出した光の自己吸収がほぼ無い) 、高い蛍光量子収率を示す蛍光材料として、側方基を有する (ドナー)-パイ-(アクセプター) 型ビフェニルを設計、合成し、その光物性を評価した。合成したビフェニル誘導体の溶媒トルエン中でのストークスシフトは 80~146 nm を示し、自己吸収が起こりにくい電子構造をしていることがわかった。またビフェニル誘導体を1 wt% ドープしたPMMA 薄膜は発光極大波長を435- 577 nmにもつ蛍光を発し、その蛍光量子収率は0.64~0.84 と良好な値を示した。


07 立命館大学 理工学部 物理科学科 教授 滝沢 優 様

テーマ:「リチウムイオン電池の劣化機構解明に向けた電子レベルでの理解」

 立命館大学 SR センターの放射光を用いて、金属リチウム表面の電子状態と化学状態を研究した。超高真空下でも微小な残留ガスと金属リチウム表面が反応するため、純粋なガス雰囲気下での変化を理解する前に、まず超高真空中での金属リチウム表面の電子状態変化を調べた。金属リチウム表面を超高真空下で清浄化した直後、価電子帯に明瞭なフェルミ端が観測され、Li K-edge スペクトルは約55 eV から立ち上がるステップ関数的な形状が観測された。その後、時間が経つとスペクトルが大きく変化し、価電子帯の結合エネルギー6 eV の構造とLi K-edge スペクトルの58 eV と63 eV の構造はLi
2Oの特徴であった。 さらに、バルク中の極微量な不純物ナトリウムが金属リチウム表面に析出し、2 次元的なナトリウム層を形成すると考察した。この研究により、超高真空中での金属リチウム表面の電子状態を理解する手法が提案できた。


08 立命館大学 理工学部環境都市工学科 インフラマテリアル研究室
准教授 川崎 佑磨 様

テーマ:「廃棄物を主体とするセメント不使用の次世代コンクリートの開発」

 本研究では,木質細胞を接着剤として援用した硬化体の作製に取り組んだ。使用した材料は,
コンクリート廃材の粉末,木質細胞の粉末,牡蠣殻の粉末,甲殻類の粉末である。 これらの材料を混錬し加温、加圧することで硬化体を作製した。その結果,全ての実験ケースで硬化体を作製することができ,それらの硬化体の曲げ強度は、加圧温度が50℃以上の条件で高い曲げ強度を示した。曲げ強度値は最大で 9.3N/mm2 となり、セメントを使用した一般的なコンクリートの曲げ強度よりも2倍以上の曲げ強度を得た。このことから、セメントや天然素材に依存しない 廃棄物由来の材料で硬化体を作製することが可能なことを示した。またその曲げ強度は、一般的なコンクリートよりも高いことがわかった。


09 大阪大学 大学院工学研究科 電気電子情報通信工学専攻 助教 福永 崇平 様

テーマ:「家庭内直流給電システムに適用するスマートタップの基礎開発」

 再エネ電源で発電したエネルギーを最大限利用するため、家庭内給電の直流化が議論されている。本研究では直流給電システムを適用した際に必要な、使用者が安全かつ特別な知識を必要とせずに挿抜可能な、スマート電源タップの設計及び制御方法を検討した。給電母線と負荷を電気的に接続する電流スイッチ回路について、回路配線パターン設計および立体構造の採用による小型化を行い、電流経路の寄生インダクタンスを低減した。 これにより数マイクロ秒以内での負荷電流遮断を実現した。また負荷の接続状態の制御のため、電流スイッチ回路に電圧および電流センサに加え、圧カセンサを適用し、プラグ挿抜時に負荷側に生じる電圧および電流の瞬時変励、および圧カセンサによるプラグを挿抜する瞬間の圧力変動を評価した。


10 神戸大学 工学研究科機械工学専攻 材料物理講座 教授 田中 克志 様

テーマ:「鉄基フェライト二相耐熱合金の高強度化」

 本研究では,超々臨界圧火力発電ボイラ配管で用いることを想定した新規耐熱合金としてFe-Ni -Al 基bcc/B2 (β/β’) 二相合金を考え,この系における組成や添加元素と内部組織・力学特性の関連性の検討を行った。
 Fe-25Al-25Ni 三元系に8種類の第4元素を添加した材料を作製し,それぞれ溶体化処理後900℃でβ’相の析出処理を行った。その後それらの合金の内部組織、圧縮試験による力学特性の評価を行った。 添加元素や体積率が強度に与える影需は室温においてはあまりみられなかったが、400℃においては強度の高さに格子定数ミスフィットに伴うβ/β’界面での転位の移動を阻む力が関係している。また、β’相の析出熱処理温度を800℃とし,比較的細かなβ/β’二相組織としたものはより高い0.2%酎力を示した。


11 京都大学 大学院工学研究科 高分子化学専攻重合化学分野 教授 田中 一生 様

テーマ:「フッ素樹脂ハイブリッド材料による低屈折率フィルムの開発」

 フッ素樹脂とガラスによるハイブリッド材料の開発を行った。プッ素化かご型シルセスキオキサン(POSS)を合成し、これらをフィラーとしてフッ素樹脂に添加することでハイブリッドフィルムを得るという戦略で材料設計を行った。長鎖フッ素化アルキル基を側鎖に有する POSS を合成し、フッ素化ポリマーに対してフィラーとして混ぜ込み、自立膜を作製した。高フッ素化炭素直鎖をもつPOSS 誘導体によってもたらされるフッ素化ポリマーの物性変化を屈折率の測定によって確認したところ、POSS添加により低屈折率化が引き起こされた。得られたハイブリッド材料は熱分解温度が350 ℃以上であり、高い耐熱性を有していることが明らかとなった。


12 大阪大学 大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 助教 桶谷 龍成 様

テーマ:「ダイヤモンドアンビルセルを用いた有機半導体結晶の集積構造の固定化」

 ダイヤモンドアンビルセルを用いた高圧化における分子性結晶の重合反応を検討するため、クリセン骨格を基盤とし、反応性側鎖としてアントラセンまたはブタジインを導入したクリセン誘導体を設計、合成、結晶化を行った。アントラセンを導入したクリセン誘導体の結晶に対して、ダイヤモンドアンビルセルを用いて6 GPa まで圧力を印可し、紫外光を照射したが重合反応は確認されなかった。 しかしながら、結晶の色と発光色に大きな変化が確認されたため、高圧下における発光スペクトルを測定したところ、分子間距離の収縮に伴う発光色の長波長シフトが観測された。


13 京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点 北川進グループ
   特定講師 坂本 裕俊 様

テーマ:「MOF粒子内のCO2吸着過程を可視化するX 線吸収イメージングシステムの開発」

 本研究では、多孔性結晶材料MOF(Metal Organic Framework)の実用化に向けて、MOF 単結晶内部での二酸化炭素(CO
2)吸着過程を可視化することを目指した。そのために、気密性と断熱性を確保した温度可変セルを新たに設計・製作し、MOF粒子内部の吸着過程を可視化するためのイメージングシステムを構築した。欠陥制御が可能な代表的MOFであるUiO-66 をモデル試料として選び、これに対して、X 線回折、熱重量分析、吸着等温線測定などの特性評価を行い、細孔内の乾燥・加湿状態に対応した X 線吸収スペクトルの変化をあいちシンクロトロン施設で観測した。これらの一連の取り組みにより、MOF 単結晶内部のCO2吸着過程を可視化するための重要な基礎を築くことができた。今後は実際にCO2ガスを導入しながらの吸着イメージング実験を行う予定である。


14 大阪公立大学 大学院工学研究科 物質化学生命系専攻 応用化学分野
   准教授 亀川 孝 様

テーマ:「二酸化炭素の高効率な再資源化を実現する卑金属担持触媒の開発」

 逆水生ガスシフト反応を選択的に進行させるためには、600℃ 以上の反応温度が必要である。400℃ 以下の低温度域ではメタン生成反応が主反応となる。省エネルギー化の観点から反応温度の低温化が望まれる。汎用性の高い卑金属を活用することも重要であり、低温度域で一酸化炭素(CO)の高選択的な生成を可能にする担持ニッケル触媒の開発に取り組んだ。触媒担体とする物質の特異な電子状態や物性の協奏的な利用を検討した。 逆水生ガスシフト反応においてCOの逐次的な水素化を抑制することで、シリカやアルミナを用いて調製した担持ニッケル触媒ではメタンが主生成物になる低温度域にておいても、90%以上の高いCO選択率を示す新しい触媒材料の開発に成功した。この触媒では、水素を過剰に供給しても高いCO選択率を維持できることも確認した。


15 京都大学 大学院工学研究科 合成・生物化学専攻 有機金属化学分野
   准教授 石田 直樹 様

テーマ:「有機化合物へのCO
2固定化によるカルボン酸合成反応」

 本研究では、CO
2 を原料として利用するカルボン酸合成法を開発することを目的として検討を行った。その結果、電子求引基を持つアルキルアレーンのベンジル位炭素-水素結合間にCO2 を取り込んで、フェニル酢酸の誘導体を合成する反応を見出した。本反応は金属塩などの副生成物を排出しない点で既知の類似反応よりも環境調和性に優れている。生成物のフェニル酢酸の誘導体には抗炎症作用を示すものが多く知られており、非ステロイド系抗炎症薬として実際に用いられているものも存在する。本研究をさらに発展させることで、このような医薬品をCO2から合成することにつながると期待される。


16 奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学領域 教授 荒谷 直樹 様

テーマ:「リボン状有機分子に基づく透明性の高い遮熱材の開発」

 日射光のうち室内の明るさを保つ可視光は透過しつつ、室内温度の上昇に繋がる赤外光のみを選択的に遮蔽する遮熱材の開発は重要であり、エネルギーの効率的利用の観点からカーボンニュートラルに寄与する。ナフタレン6つを1,8位で直線状に縮環したヘキサリレンは、近赤外領域である831nm にシャープな極大吸収をもち遮熱効果を期待させるが、可視領域にも吸収をもつため溶液は緑色に着色する。本研究課題では、ヘキサリレンの両端にイミド基を導入し、吸収のさらなる長波長シフトによって有機分子に基づく無色透明の近赤外吸収材料開発を目指した。反応活性位置にイミド置換基を導入することで酸化に対する化学的安定性も得た。ヘキサリレンビスイミドの化学構造はX 線結晶構造解析によって明らかにした。実測の吸収スペクトルから、75%以上の近赤外選択性を示すことを実証した。


17 大阪大学 大学院基礎工学研究科 附属スピントロニクス学術連携研究教育センター
   特任准教授 山田 道洋 様
   2024年6月現在:理工学部 電気電子通信工学科
   大学院総合理工学研究科 電気・化学専攻 電気電子工学領域
   准教授 山田 道洋 様

テーマ:「超低消費電力デバイスに向けた半導体ナノワイヤスピン素子の開拓」

 スピンMOSFETは情報処理と不揮発メモリ機能を単一のデバイスで実現可能な低消費電力デバイスとして注目を集めている。本研究では、今後の電子デバイス構造としても注目されるGeナノワイヤチャネルに着目し、半導体ナノワイヤスピンMOSFETに向けて裔密度Geナノワイヤの作製とGe/IV 族半導体混晶コアシェル構造に向けた強磁性体/IV族半導体混晶界面の評価を行った。ナノワイヤの高密度成長やコアシェル構造に向けた強磁性体/半導体界面の精密評価など半導体ナノワイヤスピン素子開拓に必要な基盤技術を確立することに成功した。今後、これらの知見に基づきさらなる高度化進めることで、ナノワイヤスピン素子中のスピン緩和機構の解明や性能指標の向上が期待される


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その他
・ その他、必要に応じて掲示いたします。